今や、プライベートの旅行でもビジネスの出張などでも、飛行機は重要な移動手段のひとつ。バスや電車のように公共の交通手段としてよく使われる飛行機ですが、燃料がどこに積まれているのか知っていますか?
バスなら車と同じようにガソリンタンクが、電車なら電気の供給がありますね。大空を自由に飛ぶ飛行機には、電線はありません。では燃料タンク?積んでいるのはガソリン?
そんな飛行機の燃料についてのさまざまな疑問にお答えします!
飛行機の燃料は「ケロシン(JET-A、JP-5)」というものを使っています。これは石油の中でも「軽質油」の一種で、ガソリンや灯油、軽油などがこの「軽質油」に含まれます。中でも、飛行機の燃料に近いのは灯油で、同じようにケロシンという石油成分を使っています。
飛行機のケロシンと家庭用の灯油の大きな違いは、水分量の違いです。家庭用の灯油は、飛行機で使っているものよりも水分などの不純物が多く、飛行機の飛ぶ上空10,000m、気温-50℃の世界では凍ってしまって使えません。
そこで、飛行機に使うケロシンは家庭用のものよりもさらに純度を高め、ほぼ純粋なケロシンを使っているのです。
ケロシンは、車のガソリンと比較して安全で安価なことも、飛行機にとって大きなメリットです。ガソリンの引火点は-43℃ですが、ケロシンの引火点は38〜72℃です。引火点よりも低い温度では、例え火花などで瞬間的に火がついたとしてもすぐに消えてしまいます。
つまり、上空を飛んでいる時、すなわち気温がマイナスになるような場所では、引火する可能性はほぼないと考えて良いのです。
ちなみに、小型のプロペラ機などでは、ケロシン系の燃料ではなく、航空用ガソリンを燃料とするものもあります。
この場合は、ケロシン系よりも車に積んでいるガソリンに近い燃料ですが、寒さに強くする・安定性を高くするなどの目的のため、飛行機用に成分を調整してあります。
飛行機の燃料タンクは、主翼の中と胴体の中央付近に帯状に積まれています。翼に積むと重いのでは?胴体に積んだ方が良いのでは?と思う人も多いでしょうが、実は、飛行機にとっては翼に積んだ方が都合が良いのです。これは、飛行機の離陸時にかかる力に関係しています。
飛行機が飛ぶためには、飛行機を上に押し上げる力(揚力)が働きます。この時、飛行機の中で最も揚力の影響を受けるのは、広さのわりに重さが軽い翼の部分です。
つまり、飛行機が揚力を受けて上へ持ち上がると、その分、翼が下から押し上げられ、上方向にぐっとしなり、反り返ることになります。
しかし、飛行機の翼はゴムや布ではありませんから、しなり続けているとやがて限界が訪れ、最終的に翼が折れてしまう可能性があります。そこで、翼にあえて燃料を入れて重さを足し、足した燃料の重みによって、翼が必要以上にしなるのを防いでいるのです。
そのため、燃料を使う時も翼からではなく、胴体に近い方から順々に使われていき、できるだけ主翼には重みを持たせたままにするという仕組みになっているのです。
飛行機の燃料は、最大で飛行機の約半分程度の重さまで積めることになっています。例えば、現在の国際線の大型主力機の一つである「ボーイング777-300ER」という機体の場合、最大燃料は約18万リットルと規定されています。これがどのくらいの量なのかというと、ドラム缶約900本分です。
ケロシンの比重が0.8であることを考えて重量に置き換えると、およそ144トン。燃料や乗客・貨物などを一切積んでいない状態の「ボーイング777-300ER」の重さが約168トンですから、ここに燃料を積むと、総重量約312トンのうち、およそ46%が燃料分となります。やはり、だいたい半分ぐらいが燃料の重さになると思って良いでしょう。
ただし、最大重量まで燃料を積んで飛ぶことはほとんどありません。なぜなら、飛行機が重くなればなるほど燃料を消費しますし、そもそも飛行しづらくなるからです。そこで、飛行機には以下のような計算方法で、必要な燃料だけを積むようにしているのです。
[滑走路を走る量+目的地までの予想消費量+目的地に降りられない時の上空待機用燃料+代替空港へ向かうための燃料+多少の予備燃料]
多少の予備燃料とは、天候の変化など何らかのイレギュラーによって計画よりも余分に燃料を消費することになったときに必要と考えられる量です。この予備燃料を積むことも、航空法で定められています。
飛行機は、前述の通り「目的地に降りられない時の上空待機用燃料」や「代替空港へ向かうための燃料」などを余分に積んでいます。
代替空港とは、万が一、目的地の空港で何らかのトラブルなどが起こっても飛行機が進路を変えれば安全に着陸できるよう、あらかじめ設定しておく予備プランの空港のことで、そもそも最初から代替空港へ行くための燃料も計算されているのです。
そのため、燃料切れを起こすことは滅多にありません。しかし、仮に燃料切れが起こった場合でも、すぐに墜落するわけではありません。
飛行機はグライダーのようにゆっくりと滑空しながら安全に着陸できる場所を探し、不時着を試みます。過去にはこの方法で着陸に成功した例も何例かありますが、そもそもこのような例は非常に稀なことなので安心してくださいね。
飛行機に乗っていて、機体トラブルや重病人発生などがあり「燃料投棄し、空港へ引き返します」などという機内アナウンスを聞いたことはありますか?
「機体トラブルで燃料投棄」と聞くと、ついつい「飛行機が爆発するのでは?」などと不安になってしまう人も少なくありませんが、これは全くの誤解です。
飛行機は、ある一定の重量以上でないと離陸できないという規定があります。もちろん安全のためで、これを最小離陸重量と呼んでいます。その逆に、「ある一定の重量以下でないと着陸できない」という規定もあるのです。
なぜなら、飛行機が降下する時や着陸する時には着陸装置によって軽減されるものの、多少の衝撃がかかるからです。この衝撃は機体の重さが重くなるほど大きくなるため、最大着陸重量を超えてしまうと機体そのものが壊れてしまうおそれがあるのです。
ですから、機体が燃料投棄をするのは、むしろ安全のための方法なのです。また、通常の何事もないフライトであれば、目的地までに計算済みの燃料を使い切りますから、最大着陸重量よりも軽くなっていて、無事に着陸できるというわけです。
燃料投棄の方法は、タンクのバルブを開けて空中に放出するだけのシンプルな方法です。ガソリンを撒くと考えてしまうと、地上に落ちてベタベタになってしまうのでは?と心配になってしまいますが、飛行機の燃料は揮発性が高く、空中に放出されるとすぐに蒸発してしまうという性質を持っています。そのため、空中に放出しても地上への影響はないのです。
飛行機の燃料は、ケロシンという灯油とほとんど同じ成分を使っています。この燃料タンクは両方の翼と胴体の中央部分に帯状に積まれていて、翼の重さを調節するのにも役立っています。また、不測の事態も考えて燃料切れがないよう、多めに積まれているのです。
燃料投棄なども含めて、飛行機は私たち乗客の安全を第一に考え、かつ効率よく作られていることがわかります。飛行機に乗る時には、ぜひ少し思いを馳せてみてくださいね。